平松麻の画集
画家の平松麻さんの作品が好きで、特に『雲Ⅳ』という作品は部屋に飾って置きたいくらいに好きな絵。
平松麻『雲Ⅳ』(2018)
ジョルジョ・モランディという数多くの静物を描いたイタリアの画家がいるが、ちょっと彼の雰囲気とも似ている。
ジョルジョ・モランディ『静物』(1956)
モランディの場合、その画風に加え、静物画ということもあり、世界との断絶がある。
一方、平松さんの絵は、静謐なのに世界との狭間に境界線を引かず、溶け込んでいる。むしろ現実と空想、意識と無意識の境界線に浮かんでいるように思える。
本来、不安定な位置のはずの境界線が、境界線ゆえに安定し、安心感をもたらしてくれる。
本格的な画集はまだ一冊もなく、唯一、日頃の油絵制作のはざまで平松さんが息抜きに描いたというマッチ箱に描かれた絵画作品を集めた作品集『Things Once Mine かつてここにいたもの』が、ZINEという形で販売されている。
ZINEには七十点の作品が並び、翻訳家の柴田元幸さんが文章を寄せる。
柴田さんは、平松麻さんの作品を見るたびに思い浮かべるものとして「太古」という言葉を挙げている。
彼女の作品は、「芸術家個人の闇にではなく、個人も超え時空も超えた太古の闇につながっている」と柴田さんは綴る。
確かに、個が個として表現する、「自己表現」という言葉が合わないような気がする。
表現力も幅広く、一見すると全然画風の違うデザインのような作品も、個を越えた深い底で一貫性がちゃんと感じられる。
モダンな雰囲気があるのに、古の世界を感じさせる、不思議な画家。
2020.9.21