津田沼駅前のパントマイム
今から五年以上前のこと、数年のあいだ僕は千葉県にある津田沼という街に住んでいた。
津田沼駅から歩いて十五分くらいで、イオンのさらに奥にある二階建てのアパートの二階の部屋が僕の住処だった。
近所には、携帯電話使用禁止のラーメン屋と、おせんべいの専門店と、コンビニがあり、よくお世話になった。
暇潰しにはヴィレッジバンガードを徘徊し、本を読んだり作業をする際はミーナのスタバとイオンのタリーズに行った。
当時スタバで働いていた店員さんに一目惚れし、密かに憧れていた僕は、彼女にいつか声をかけたいと思っていた。
でも、結局恥ずかしくて何も言えないまま、気づいたら彼女はお店からいなくなっていた。
会計のときと、新しいフラペチーノをよかったらどうぞ、と言って席をまわってくるときに会話をしただけだった。
その後、一度だけ、津田沼駅前を歩いていたときに人混みのなかを彼女が通り過ぎていったことがあった。
一瞬追いかけて声をかけようかと思ったものの、「お前は誰だよ」というもう一人の僕の声がよぎり、すぐに諦めた。
それ以来、もう会うことはなかった。
津田沼駅は、ちょうど船橋市と習志野市の境にあり、北口を出ると、左が船橋市、右が習志野市になっている。
駅前には、右斜め前を見上げる全裸の男性の像がある。
数年住んでも、とうとう彼が一体何者で、作者が誰で、あの視線が何を見つめているのか、知らないままだったし、名前も分からないので待ち合わせに使ったこともなかった。
クリスマスの翌日だったか、たぶん酔っ払った誰かの仕業だろう、男性像の首に赤い首飾りがかけられていたことがあった。
崇高な裸像も、安っぽい首飾り一つでほんとうにただの裸のひとになるのだな、と感慨深く思った記憶がある。
もう一つ、津田沼駅前で印象に残っているのは、フォーマルな格好に仮面をかぶったダンサーのパントマイムのこと。
KERAという名前のパフォーマーで、駅前で音楽に合わせたダンスとパントマイムを披露していた。軽やかでキレのある動きと繊細な身体パフォーマンスに、僕はしばらく見惚れていた。
何気ないワンシーン含め、他にも色々と思い出はあるので、また思い出したら書いていこうと思う。
2020.9.20